2018年6月1日00時28分

エジプトで発見のマルコ福音書断片、「1世紀説」否定される 世界最古めぐり議論

エジプトで発見されたマルコ福音書の写本断片、1世紀のものでないことが明らかに 世界最古めぐり議論
オクシリンコス・パピルスの1つ。※ 記事で取り上げている5345番テキストではない。(写真:Euclid)

この数年間、一部の学者はエジプトで発見されたマルコによる福音書の写本断片が、1世紀のものだとし、現存する新約聖書の写本断片としては最古となる可能性を示唆してきた。しかし、エジプトとスーダンで活動する「エジプト探査協会」(EES、本部・ロンドン)は24日、断片は1世紀のものではなく、2世紀後期か3世紀初期にかけてのものであると発表し、これまでの主張を否定した。

議論されてきた断片は、新約聖書のマルコによる福音書1章7〜9節、16〜18節が記されたもの。EESによると、「オクシリンコス・パピルス」の最新巻となる第83巻に収められた5345番テキスト(英語)。

オクシリンコス・パピルスとは、エジプト中部のオクシリンコスで、19世紀後期から20世紀初期にかけて発見された数千点に及ぶパピルス文書や断片の総称。オクシリンコスには古代のゴミ捨て場があり、そこから千年余りにわたって蓄積されたさまざまなパピルス文書が見つかった。発見されたテキスト1つ1つには番号がふられている。

EESは発表(英語)で「パピルスの(断片の)両面には、マルコによる福音書の文面が少し残されていました」と説明。「客観的に年代測定された他のテキストと慎重に比較した結果、このパピルス文書は2世紀後期から3世紀初期のものと判定されます」と結論付けている。

この断片は24日に公開されたが、英オックスフォード大学のパピルス学者ダーク・オビンク氏が、2011〜12年に同大を訪れた人々に見せていたことから、断片に関してはこれまでさまざまな見解が存在した。

訪問者の1人である米ダラス神学校のダニエル・B・ウォレス博士は12年、新約聖書学者で不可知論者のバート・D・アーマン氏との討論の中で、1世紀に書かれた可能性が高いと思われるマルコによる福音書の写本断片を見たことがあると公言していた。ウォレス氏は当時、自身のブログ(英語)に「世界的な古文書学者がこの写本の年代を測定したが、その人物は1世紀のものであるとの強い確信を持っている」などと書いていた。

EESは、オクシリンコス・パピルスの5345番テキストが、近年メディアで議論されてきた断片と同じものだとしている。この断片はその番号から1903年に発見されたとみられ、当時テキストを目録化した際に、仮に定められた年代が1世紀後期だったことから、「1世紀説」が生まれたとみられている。

EESによると、保有するオクシリンコス・パピルスで新約聖書に関わるテキストのうち、3世紀以前と特定されたものは、これまで1つもないという。

ウォレス氏はこれを受け、誤った情報を発信したとしてブログ(英語)で謝罪。「入手したデータに間違いがないと信じたことは、私の不徳の致すところだった。それ故、私はまず初めにバート・D・アーマン氏に謝罪しなければならない。また、この断片について誤解を招くような情報を与えたことを、すべての人に謝罪する」と述べた。

ウォレス氏は、故意に誤った情報を発信したわけではないと弁明したが、自分自身で検証していない情報をうのみにせず、もっと慎重であるべきだったと述べた。

エジプトで発見されたマルコ福音書の写本断片、1世紀のものでないことが明らかに 世界最古めぐり議論
エジプト中部のオクシリンコスで1903年に行われた発掘作業の様子(写真:Arthur Surridge Hunt)

オクシリンコスの発掘は、オックスフォード大学のフェローだったバーナード・グレンフェルとアーサー・ハントの2人の考古学者によって、1897年から始められた。2人の功績により50万余りの文書や断片が発見され、その多くがオックスフォードにあるEESの「サックラー図書館」で保存されている。

英インディペンデント紙(英語)によると、オクシリンコスで発見された各テキストは、1898年から2012年までの間に、5千以上が判読できるよう文字化された。

11年には「古代の生活(Ancient Lives)」と名付けられたプロジェクトが立ち上げられ、古代ギリシャ語が分かる世界中の人々が、テキストをオンラインで閲覧し、文字化作業を行えるようになっている。このプロジェクトにより、2世紀にアレクサンドリアでエゼキエルという人物によって書かれたギリシャ悲劇「出エジプト記」の断片などが発見されている。