2018年5月19日16時24分

一足お先に試写!「炎のランナー」のその後を描く「最後のランナー」がついに日本公開

執筆者 : 青木保憲

一足お先に試写!「炎のランナー」のその後を描く「最後のランナー」がついに日本公開

「炎のランナー」といえば、あの有名なテーマソングが思い浮かぶ。シンセサイザーで奏でられる重厚かつ斬新なメロディーは、今でも時々口ずさんでしまう。海岸線をイケメンたちが金髪をなびかせて走るその様は、英国紳士の洗練された青春ドラマを髣髴(ほうふつ)とさせる。

ご存じのように、1981年の米アカデミー賞で作品賞含む4部門を制し、今や「クラッシック」の代表格といっても過言ではない。私の記憶ではそんな華々しい記録よりも、教会主催の映画会で「塩狩峠」と並んで、事あるごとにリピートされた作品として脳裏に焼き付いている。

1924年のパリ・オリンピックで、クリスチャンとして安息日に活動しないということで、日曜日に行われるレースを辞退。その後に行われた400メートル走で金メダルを獲得したエリック・リデルの半生を描いた作品である。

そして「日曜日に走らない」という信仰的な決断が実際に行われたということで、この信仰姿勢を評価した当時のキリスト教界が、こぞって映画会でエリックの業績(金メダル獲得よりもむしろ彼の安息日への姿勢を評価)をたたえたものだ。

しかし、その後の半生はほとんど知られていなかった。私もエリックが後に宣教師となり、中国へ渡ったという話は学生時代にチラッと聞いたことはあった。しかし「金メダリスト」という威光の前では、どうも今一つパッとしない話だな、としか思えなかった。

だがそれから30年近くたち、ついに彼の半生が映像化されると聞かされたときは、大いに期待したものだ。可能なら同じ俳優を用いて、同じ監督で「炎のランナー Part 2」のような大作映画としてでき上がればいいなと思っていた。

それからさらに2年近く待った2018年、ついにこの作品を目にすることができた。タイトルは「最後のランナー」。しかし原題の「On Wings of Eagles(ワシの翼に乗って)」の方が内容をよく表しているように思えた。

一足お先に試写!「炎のランナー」のその後を描く「最後のランナー」がついに日本公開
©2017 Goodland Pictures, ©2017 KD Multimedia Limited Innowave Limite

前作の青春ドラマ風は一変。今回は「戦場にかける橋」ばりに日本兵の鬼畜ぶりがクローズアップされ、その収容所に入れられた英国人の苦悩が描かれていく。上映時間は96分。少し短い気がする。

公開前(5月半ば)なのでネタバレはしないが、エリックの信仰的な側面がより色濃く出ていることは好感が持てた。そして宣教師としての彼の働きが、現地の子どもたちに科学を教えることだったことを知り、さらに好感度が上がった。

だが一方で、彼のその働きには家族の犠牲が伴っていることも描かれている。妻はもとより、子どもたち、特に一度も父親(エリック)の顔を見ることができない末っ子のことを思うと胸が痛む。

宣教師とはある意味「片道切符」しか持たずに現地入りするのが使命だが、その背後で彼らを支えた多くの人々のことにも思いを馳せる。

映画のクライマックスは、彼が日本軍の隊長と短距離の一騎打ちをするシーン。そこに前作「炎のランナー」の片りんを見ることになる。エリックを応援する人々が、自分たちにできることをしようと決断し、彼のために皆で祈るシーンは涙があふれてくる。

今も昔も、同じ信仰を抱く者が共に支えあう象徴として、祈りが与えられているのだな、と思わされるシーンであった。

さて、その後の展開はここでは伏せておくことにしよう。やはり劇場で直接物語の後半を体験してもらいたい。そしてこの映画を観て、あなたが何を思うか。それをぜひ多くの方と語り合ってもらいたい。

一足お先に試写!「炎のランナー」のその後を描く「最後のランナー」がついに日本公開
©2017 Goodland Pictures, ©2017 KD Multimedia Limited Innowave Limite

映画の作りとしては、決して大作ではなく、主演のジョセフ・ファインズ以外は日本ではほぼ無名の役者たちである。飛んでいる飛行機がいかにも模型だったり、中国人役の演技が少しぎごちなかったり、CGやアカデミー賞クラスの戦争映画を見慣れた観客には、本作の粗が目に付くかもしれない。しかしそれを補って余りあるエリックの生涯が描かれるのだから、突っ込みはほどほどにしておく方がいい。そうすると感動がひとしおである。

私たち人間の目から見るなら、エリック・リデルの前半部(金メダリスト)にこそ注目すべきとなるだろう。しかし神の目から見るならどうだろうか。目立たない生き方ではあるが、彼が現実社会というフィールドを宣教師として駆け抜けたという事実は、オリンピック以上に多くの人々、特に信仰者を励まし、鼓舞し続けることになるのではないだろうか。

映画は7月14日から公開される。今年はゴールデンウィークの「アベンジャース・インフィニティウォー」に続いて、ハリウッドから「ハン・ソロ / スターウォーズ・ストーリー」「ジュラシック・ワールド / 炎の王国」、シリーズ6作目の「ミッション:インポッシブル / フォールアウト」などが公開される。やはりシリーズ物の大作ラッシュが夏休みの劇場をにぎわすことになろう。

しかし単館アート系で公開されるであろう本作は、大味の大作では感じられない人生の機微をしっかりと伝える作品として人々の心に残ることだろう。そう期待する。

■ 映画「最後のランナー」予告編

■ 映画「最後のランナー」公式サイト

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青木保憲

青木保憲

(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科修了(修士)、同志社大学大学院神学研究科修了(神学博士)。グレース宣教会牧師、同志社大学嘱託講師。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(明石書店、12年)、『読むだけでわかるキリスト教の歴史』(イーグレープ、21年)。