2017年1月19日19時52分

温故知神—福音は東方世界へ(64)大秦景教流行中国碑の現代訳と拓本9 川口一彦

コラムニスト : 川口一彦

温故知神—福音は東方世界へ(64)大秦景教流行中国碑の現代訳と拓本9 川口一彦

<本文と拓本>32文字(233+32=265)

出代(世に出る)。神天宣慶(神天は慶を宣し)、室女誕聖於大秦(室女=<母マリア>は大秦[注]にて聖[注]を誕生す)。景宿告祥(景宿は祥を告げ)、波斯覩耀以来貢(波斯[注]からは耀きを観て来貢す)。圓廿四聖有説之舊法(廿四聖[注]は有説の旧法を円くし)、理家國於天猷説(家國を天猷に理む)。

[注]代は本来、世と書くが、唐代の初期皇帝が「李世民」でその忌み字として「世」を使用しないため、代とした。ちなみに「景」も忌み字で変化させた。

[注]メシアが聖であるとは、ルカ福音書1章35節による。

[注]大秦は、広義には古代の(東)ローマ帝国を指す。狭義ではユダヤを指し、景教文書では狭義的に使われる。碑文のこの箇所と、『景教宣元本経』には大秦國那薩羅(ナザレ)城とある。中国の歴史書の唐会要49巻に「天寶四年九月に詔して曰く、波斯經教、出自大秦・・波斯寺を改め大秦寺と宣す」とある。『後漢書』巻86・88、『三国志』30、『晋書』巻97、『列伝』67、『魏書』巻102の列伝90、『舊唐書』巻198の列伝の148、『唐書』巻221下列伝の146、道蔵の猶歩龍伝巻4の第5などに「大秦」が出る。

[注]波斯はペルシャのこと。

[注]廿四聖は旧約聖書の各巻数。ユダヤ教の聖書(旧約聖書を指す)の巻数は24あるいは22である。例えばサムエル記や列王記などの上下を1巻として数えるとその数となる。他に旧約聖徒の数、黙示録4章4節の長老の数、イスラエル12部族とイエスの12使徒の数を合計した数などが挙げられる。

<現代訳>

(メシアは)世に出られました。天使は喜びを告げ、母マリアは聖なるメシアを大秦のユダヤで産みますと、ペルシャからは星の輝きを見て貢物を持って来ました。こうして24巻の旧約聖書を成就し、家も国も御手に治めました。

<解説>

この箇所はメシアの降誕記事で、東の博士たちはペルシャから宝物をささげに来たことが書かれています。なぜペルシャだと断定できたのかは、実際にメシアを礼拝した博士たちが自国に帰ってメシアに出会ったことを秘め事にせずに言い広めたからです。こうして、東方地域に最初に福音が伝えられたのはペルシャでした。ここからメシア礼拝の巡礼者が増えていきました。主イエスが復活し、昇天し、聖霊が下ったときには、東方地域から多くのメシア・イエスを求めて来ていました(使徒2章)。

そして主イエス・メシアの福音が東方やインド、中央アジアへとシルクロードなどを利用して伝えられていくことになりました。

※ 参考文献
『景教—東回りの古代キリスト教・景教とその波及—』(改訂新装版、イーグレープ、2014年)

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川口一彦

川口一彦

(かわぐち・かずひこ)

1951年、三重県松阪市生まれ。愛知福音キリスト教会宣教牧師、基督教教育学博士。聖書宣教、仏教とキリスト教の違い、景教に関するセミナーなどを開催。日本景教研究会(2009年設立)代表、国際景教研究会・日本代表を務める。季刊誌「景教」を発行、国際景教学術大会を毎年開催している。2014年11月3日には、大秦景教流行中国碑を教会前に建設。最近は、聖句書展や拓本展も開催している。

著書に 『景教—東回りの古代キリスト教・景教とその波及—』(改訂新装版、2014年)、『仏教からクリスチャンへ―新装改訂版―』『一から始める筆ペン練習帳』(共にイーグレープ発行)、『漢字と聖書と福音』『景教のたどった道』(韓国語版)ほかがある。

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