2016年10月9日19時13分

牧師の小窓(49)息子の覚せい剤使用に気付いた母親がとった行動 福江等

コラムニスト : 福江等

牧師の小窓(49)息子の覚せい剤使用に気付いた母親がとった行動 福江等
覚せい剤を体内に注入している女性(写真は本文と関係ありません)

過日、高知新聞に心打たれる記事が載っていました。息子の覚せい剤使用に気付いた母親が、警察へ通報したというのです。

母親は息子の持ち物から覚せい剤の袋を見つけました。息子はすでに5年前に覚せい剤使用で執行猶予付きの判決を受けていたのでした。「今、メスを入れないと、息子は一生だめになってしまう」と思い、母親自らが警察に通報したのです。

息子は逮捕されました。逮捕後、母親は接見に行くことをしませんでした。息子を見捨てたのでもなく、会いたくなかったわけでもありません。母親は「心が張り裂けるぐらいつらかった」のでした。

去る9月下旬、裁判の証人として出廷し、息子と再び法廷で顔を合わせた母親は、証言台から被告席の息子に、「逃げないで、自分に向き合ってほしい」と叱咤(しった)したのでした。

厳しい母親の言葉の中にも母親の愛情を感じたのか、息子は「母の覚悟が分かった。ここまで気が付かなかった自分が情けない」と泣きながら答えたといいます。母親は息子に「自立して、立ち直ってほしい」という必死の願いから、あえて息子を法の前に立たせるようなことをしたのでした。

わが子がかわいくない親はほとんどいないと思います。わが子が自らを滅ぼすような道を歩んでいるのを見て、心痛めない親もまずいないでしょう。かわいいわが子を警察に突き出すようなことを、平常心でできる親がいるはずがありません。

しかし、子どもの将来を考えたら、子どもにあえて厳しい現実に直面させて、自分の姿を見つめるようになってほしい、現実から逃げないで、自分の足で立ち上がってほしい、そのためには、このような手段もやむを得ないという母親の気持ちを、親であれば誰でも分かると思います。この母親の決断と勇気が必ずいつか良い実を結ぶことを信じたいと思います。

神様の愛とはまさに、この母親のような愛だと思います。私たちが神様のみもとに立ち返るようになるため、神様がどれほど「心引き裂かれる」ような苦しみを味わったことでしょう。その究極の姿がキリストの十字架の姿です。

<<前回へ     次回へ>>

◇

福江等

福江等

(ふくえ・ひとし)

1947年、香川県生まれ。1966年、上智大学文学部英文科に入学。1984年、ボストン大学大学院卒、神学博士号修得。1973年、高知加賀野井キリスト教会創立。2001~07年、フィリピンのアジア・パシフィック・ナザレン神学大学院教授、学長。現在、高知加賀野井キリスト教会牧師、高知刑務所教誨師、高知県立大学非常勤講師。著書に『主が聖であられるように』(訳書)、『聖化の説教[旧約篇Ⅱ]―牧師17人が語るホーリネスの恵み』(共著)、『天のふるさとに近づきつつ―人生・信仰・終活―』(ビリー・グラハム著、訳書)など。

■ 福江等牧師フェイスブックページ
■ 高知加賀野井キリスト教会ホームページ
■ 高知加賀野井キリスト教会フェイスブックページ