2016年10月4日21時14分

広大なキャンパスで学園の魅力を伝える 自由学園協力会主催「秋の南沢フェスティバル」

広大なキャンパスで学園の魅力を伝える 自由学園協力会主催「秋の南沢フェスティバル」
色彩豊かで独特なタッチが特徴の自由学園のパネル。学園のさまざまな取り組みを紹介していた=9月18日、東京都東久留米市の自由学園南沢フェスティバル会場で

都内とは思えない美しく広大なキャンパス

間もなく創立100周年を迎える自由学園(東京都東久留米市)では9月18日、秋の南沢フェスティバルが今年も開催された。同フェスティバルは春と秋の年2回、卒業生や関係者が組織する「協力会」が主催し、学園の魅力を知ってもらおうとキャンパスを開放する。秋雨が降る中、大勢の人が南沢の地を訪れ、自由学園の魅力に触れながら思い思いの時間を過ごしていた。

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学校の関係者だけではなく、一般の人も自由に校内を散策できる。雨天の中、2千人近くが南沢の地を訪ねた。アイスクリームコーナーは大人気。

人間の土台を創る独自の少人数制一貫教育を実践

自由学園は1921年、日本を代表する教育者、羽仁吉一・もと子氏により創立された。戦時中の厳しい時代にあっても「自由・協力・愛」を訴え続け、真の教育を揺らぐことなく継承し続けてきた学校だ。

その教育理念は「生活即教育」と提唱されたように、自労自治(じろうじち)を営みながら1日24時間全てが勉強であると教える。この独自の教育方針は、国内だけではなく海外でも注目されている。幼児生活団から大学部まで約800人が学ぶ中、協力会がそれを支え続けているのだ。

「よい社会」をつくろう。自由学園協力会が配るパンフレットには、そうつづられていた。ページをめくると、鮮やかな学園のキャンパスと生徒の笑顔が写っていた。卒業生たちが自分の母校を愛し、思う。活動には「支え続けます」と記されていた。

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自由学園の手作りクッキー。奥に見えるのは記念講堂だ。このキャンパスでは、四季折々の自然と花々が生徒たちを迎えてくれる。都会のオアシスだ。

正門には大勢の人が集まっていた。東京とは思えない広大な敷地には、緑豊かで美しい木々が一面に広がっている。校内の多くの建物は、創設時から変わらぬ瓦を使用している。豊島区池袋にある自由学園・明日館(みょうにちかん)は、20世紀を代表する世界的建築家である米国のフランク・ロイド・ライト氏(1867~1959)が設計し、国の重要文化財に指定されている。

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初等部の食堂。生徒たちは全員で昼食を食べる。当日は「初等部レシピのドライカレー」が販売されていた。

初等部「よくみる よくきく よくする」は初等部教育の根幹

最初に訪れた、初等部は「こども広場」として開放され、味わいのある瓦校舎の下で来場者が楽しそうに教室を見て回っていた。生徒が大きな声で「ポニーに乗れます。雨が降ったら中止になります。いかがですか!」と看板を持ちながら笑顔で呼び掛ける。「やっぱり人気があります」、彼はそう答えた。ポニー乗り場は家族連れが集まっていた。「パパと乗ります」。小さな子どもを連れた母親は卒業生だという。

「コルクの積み木で遊ぼう」「作ってみよう!もしもし糸電話」など、ワークショップが盛りだくさんだ。人々の学園に対する関心の高さが伺えた。

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緑が一面に広がるグラウンドに愛らしいポニーが登場。家族連れには特に人気のコーナーだった(写真左)。教室の中で、コルク積み木で遊ぶ子どもたち(同右)。
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女子部の大芝生。生徒たちの手で丹念に管理されている。青々と美しい。10月には体操会がこの場所で行われる。

女子部「思想しつつ 生活しつつ 祈りつつ」

女子部へ向かう。緩い坂を下っていくと広く美しい大芝生と女子部の校舎が広がる。足元は石畳が敷き詰められている。瓦のモノトーンが味わい深く空間の芸術を感じさせる。女子部の生徒たちが子どもの顔にペイントを施していた。

「野の花祭」は、生徒たちの手で準備し、運営しているという。女子部ではスタンプラリー、教室アート、部活動の発表や展示が行われていた。お化け屋敷コーナーは「予想以上に怖いみたいです」と生徒たちも苦笑い。お化けに扮した生徒が窓から手を振ってくれた。

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美しい芝生が広がる女子部の校舎(写真左)。女子部の食堂(同右)。食堂内では手作りの焼きそばやおにぎりを販売していた。床がピカピカだ。清掃も日課の1つ。「自分たちで労する」、その言葉の意味が分かった気がした。

食堂では工芸品や手作りの食べ物も販売され、来場者で満席だった。女子部を紹介するビデオ上映も行われていた。外で忙しそうに綿あめを作る生徒にカメラを向ける。「休む間がないです。すごい人気です」、そう語るのは中等科2年生の生徒。部活動の紹介、教室アート、教師バザー、スタンプラリーなどが楽しめた。質問にもしっかり答える姿が非常に印象的だった。

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女子部「野の花祭」受け付けの様子
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女子部の校舎(写真左)。震災に対する意識が非常に高く、被災地でのボランティア活動を通じ、自分たちで体験し実際に学んだことを発表していた。多くの来場者が足を止めていた(同右:女子部の展示コーナーで)。
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全ての敷地に芝生が広がることも特色の1つ。正面は男子部の体育館。毎朝、生徒たちはここで礼拝の時間を守っている。左手は校舎。

男子部「自ら考え、自ら学び、自ら発信する力を育てる」

最後に男子部を訪ねた。シンボルである体育館。教室の中ではスライム作りコーナーがひときわ人気だった。たくさんの家族連れが集まり、在校生と教員が分かりやすく説明をしていた。担当する教員は「たくさんの人が来てくれてよかった。上々です」と満面の笑みだ。参加する子どもたちも夢中になって手を動かしていた。

別の教室では「文字の見えるピラミッド」コーナーで、生徒が作り方や図形の魅力について説明をしてくれた。数人の在校生に話を聞けたが、学校が大好きだと語る。1年生(埼玉県飯能市)の生徒は「学園の生活はとても楽しいです」と答えた。

体育館では子どもたちがマットの上で遊んでいる。生徒が安全をしっかり見守っていた。男子部の生徒は全員が丸坊主。清潔感があり凛々(りり)しい雰囲気が印象的だった。

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教室の中で行われたスライム作り。大勢の親子連れが参加していた。自由学園は机や椅子を手作りする習わしがある。木の温かなぬくもりを感じた。「夢中ですね」と母親が語る(写真左)。スライムは上手に作れたのだろうか(同右)
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ネパールとの交流も深い。募金するとブレスレットをもらえる仕組み。大勢の人が遠くネパールの地を思い、募金をしていた。

自由学園は海外交流が盛んな学校だ。デンマークのオレロップ体育アカデミーとは半世紀にも及ぶつながりがある。ネパールやイギリスのウィンチェスター・カレッジとも交流が深い。

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鮮やかなブレスレットは子どもたちに特に好評だった(写真左)。「ネパールのために募金しました」、そう語るのは初等部の在校生(同右)。
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ボランティア活動をしている宮城県石巻市「十三浜」のわかめ販売。生徒は実際に漁師さんから収穫や加工まで教わり「その距離を縮め、理解を深め、食の未来を考える」をモットーに体験していく。婦人之友社や全国友の会が中心となって「十三浜わかめクラブ」のわかめを販売する。実際に食べたが歯ごたえがあり、美味だった。すぐに完売していた。
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自由学園にはパン工房もある。手作りパンは大人気。社会とのつながりを大切にする中で「食」は力を入れて取り組む活動の1つだ。

キリスト教主義の同校では、入学式で「あなたがたが入学したのは自由学園をよくするためです。先生はただ1人、イエス・キリストです」と学園長より語られる。

「われわれは、確かによい社会を創造(つく)り得る」、羽仁もと子氏は自身の教育著書でこのように述べている。南沢フェスティバルではその言葉の通り、生徒たちが自らの姿で校風を証ししていた。

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女子部手作りの洋服。ある卒業生が「男性も女性も等しく台所に立てないといけない。学園で裁縫から料理、掃除、全部が身に付いた」と語った言葉を思い出した=女子部教室で
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生徒が書いた習字が展示されていた。個性豊かな表現力に圧倒される。

「本物にふれ、自ら考え、問題を発見し、それを解決することができる力を養う」。協力会を説明するパンフレットにそう書かれていた。

ここは、机の上の勉強だけでなく、農業や養豚、清掃に管理、さまざまなことを体験できる貴重な学校であることがよく分かった。子どもたちがイキイキし、積極的に自ら進んで学ぶ姿も垣間見ることができた。

間もなく創立100周年を迎える同校が、次世代にもこの教育理念と伝統を継承していくことを願う。協力会が主催する「南沢フェスティバル」は、自由学園の美しい自然と触れ合いながら、各部ごとの取り組みを肌で感じることができる貴重な場だと感じた。

家族連れが「いい学校だったね」と話しながら家路に向かっていた。多くの人が学園の魅力に触れることができたのではないだろうか。

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11月19、20日は、4年に1度の自由学園美術展が開催される。生徒たちの美的センスと芸術への熱意を見て楽しめる祭典だ。
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■ 学校法人自由学園公式サイト