2015年1月31日12時03分

イスラム教、知らないではすまされない!? 東洋文庫で「もっと知りたい!イスラーム展」開催中

イスラム教、知らないではすまされない!? 東洋文庫で「もっと知りたい!イスラーム展」
ビルマ語、サンスクリット語、アヴェスター語など各種言語で書かれた宗教関係書籍を見ることができる「オリエントホール」

いつのころからだろうか、「イスラム」という言葉を耳にしない日がほとんどなくなったのは。それは、「イスラム国」による人質事件をはじめとする、過激派組織によるテロ事件だけのことを言っているのではない。

昨年末に、島津製作所(京都府京都市)のイスラム教礼拝室設置、ハラル(イスラム教の教えで許された「健全な食品」)に対応したカラオケ店の国内初オープンなどといった話題を本紙でも取りあげたが、今年に入っても、ホテル日航奈良(奈良県奈良市)がイスラム教徒への対応サービスを開始するなど、日本とイスラムに関係するニュースは日に日に増えている。

現在、約72億人の世界人口に対し、イスラム教人口は約16億人、2030年には約22億人になるといわれている。急激に信者数を伸ばしている世界宗教であり、当然その影響は日本にも及ぶことが予想される。また、外務省のビザ緩和により、イスラム教大国のインドネシア、マレーシアからの訪日観光客が増加するという見込みも、イスラムと日本の関係が決して希薄でないことを示している。

イスラム教、知らないではすまされない!? 東洋文庫で「もっと知りたい!イスラーム展」
美しく彩色されたイスラムの「結婚契約書」。一夫多妻制のイメージが強いかもしれないが、女性の権利もしっかりと明文化されている。

イスラムという言葉には、イスラム教という宗教的側面だけでなく、イスラム教を信仰する人々の生活・社会体系すべてが含まれており、その全体像を把握するのはそう簡単なことではない。多くの日本人にとっては、イスラムの土台であるイスラム教すらほとんど分からない、という現状があるのではないだろうか。

イスラムという言葉を耳にする機会は増えたところで、メディアで流れる情報に翻弄されるばかりで、「危険」「過激」というイメージをなかなか拭いされていない人が多いように思われる。

東洋文庫ミュージアム(東京都文京区)で、10日から「もっと知りたい!イスラーム」という企画展示が開催されている。東洋文庫は世界5大東洋学研究図書館の一つに数えられ、約百万冊の蔵書を誇っている。2011年にミュージアムが開設され、その名品の一部が一般にも公開される場ができた。これまでも、仏教、キリスト教を取り上げ、アジアにおける宗教をテーマにした展示を行っており、その流れの中で今年はイスラムがメインテーマになった。

イスラム教、知らないではすまされない!? 東洋文庫で「もっと知りたい!イスラーム展」
ドイツ語訳の絵入り『新旧約聖書』も展示されている。1686年ニュルンベルク刊。

専任学芸員は、「まさかこの企画展示の時期に、このような事件が起こるとは」と、イスラム国による日本人人質事件について静かに驚いているようだったが、長い間積み重ねられてきた研究の成果と時代の流れが一致したというのは、なんとも不思議だ。

「イスラーム入門」「聖典コーラン」「イスラーム法」「イスラムの広がりと多様性」「中央アジアのイスラーム」「中国のイスラーム」「日本とイスラーム世界の出会い」「近代日本におけるイスラーム」といった、イスラム教、イスラム文化の基礎の基礎を知ることができる展示構成になっている。まったくイスラム教を知らない人はいちから知ることができるし、疑問を抱いている人は気づいたら解消されている、そんな展示内容だ。

今回の展示の目玉は、『コーラン』。預言者ムハンマドに授けたとされる唯一神アッラーの啓示をまとめたイスラム教の聖典だが、1300年代に現在のシリアで書写されたアラビア語のものが、これほどまでに保存状態よく日本で公開されるのは極めて珍しいという。

「イスラム教、よく分かりません」とはもはや言っていられない時代であるが、キリスト教徒はなおさらそんな言い訳を言っている場合ではないことを気づかせてくれる展示品があった。「相承図」という、イスラム教における預言者の系譜・血統を記した一枚の系図だが、神に造られた最初の人間アダムに始まり、ノア、アブラハム、モーセ、ダビデ、イエス、ムハンマドの7人が中心に据えられている。

イスラム教、知らないではすまされない!? 東洋文庫で「もっと知りたい!イスラーム展」
アダム、イエス、ムハンマドが一枚の系図にまとめられた「相承図」(左)と、イスラム教伝説の名剣が描かれた「お札」。いずれも1922〜56年北京刊。

イスラム教は、コーランを神の言葉そのものと信じ、その内容がムハンマドの最大の奇跡とされている。また、イスラム社会はコーランに基づくイスラム法によって規定され、「契約」が大変重要視される文化を持つ。一神教である、という点にとどまらず、多くのキリスト教との類似点を持つイスラム教。どこが似ていて、何が違うのか――それを理解するためには、まず「知る」ということがどれほど大事かを痛感させられる。

「日本のムスリム協会などによると、日本在住のイスラム教徒の方は10万人という報告が出ていますが、ここ最近急激に伸びている数字だと思います。これだけ人数が増えているのにもかかわらず、日本とは関係がないとは言えませんね。最近では、数々の書籍や雑誌でイスラムの特集が組まれていますが、実際にイスラム教徒の人たちが大切にしているもの、信仰の根本を実物で見ることで、体験として強く記憶に残していただければ」と学芸員は話す。

イスラム教、知らないではすまされない!? 東洋文庫で「もっと知りたい!イスラーム展」
『日本書記』(左)と『続日本書紀』。日本と西アジアを結びつける痕跡は古代にまでさかのぼることができる。

「もっと知りたい!イスラーム」展は4月12日まで開催。期間中は、イスラム教関係資料だけでなく、アジアの宗教全般に関係する資料も展示されている。ヒンズー教の百科全書『ヴィシュヌ・プラーナ』、仏教の『ジャータカ(本生譚)』、ゾロアスター教の聖典『アヴェスター』、ユダヤ教の『タルムード』、日本の『古事記』などの書物が各種言語で並べられている。イスラム教だけでなく、幅広い宗教理解のきっかけになること間違いなしだ。

詳細・問い合わせは、東洋文庫ミュージアムの展示用サイトまで。