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さくら時計

さくら時計(4)きりきり舞い 星野ひかり

2021年11月11日13時35分 コラムニスト : 星野ひかり
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さくら時計(1)プロローグ 星野ひかり+

「お客さん、着きましたよ」。タクシーの後部座席で眠っていた私は、運転手が何度も呼びかける声で目を覚ましました。おぼつかない指先で、お財布をまさぐりお金を払うと、よろよろと家へ帰りました。

私はそれまで母と暮らしていた団地を出て、一人で暮らし始めていました。

母に男の人の影を感じるようになったのはいつからであったでしょうか。気付かないふりをしておりましたが、それはきっと幼少期にさかのぼってしまうことでしょう。一人で暮らすばかりではなく、母の切り盛りするお店を出て、私は繁華街の飲み屋で働き始めておりました。

「母には好きに生きてほしい」。そんなきれいな建前の裏で、母と離れたかったのです。今日も店の後で、客の一人と飲みなおし、屋台で締めのラーメンを食べて帰ってきたはずでした。というのも記憶はおぼろげであいまいにしか覚えていません。千鳥足でアパートの階段を上り部屋に入ると、ベッドに倒れこみました。

頭の中がぐるぐると回り、脳みそが誰かの汚い手でまさぐられている気がしました。私は耐えられずに、ベッドサイドのテーブルに置いてあったウィスキーのふたを開け、ラッパ飲みを始めました。そうすれば、この耐えられない思いから解放されると思ったのです。しばらくすると、手足がけいれんし、内臓や脳まで震えました。「死ぬのかもしれない」。差し迫るような恐怖のなか、私の意識は途絶えました。

再びまぶたが開いたとき、窓の外に夕焼け空が見えました。けたたましく鳴きながら家路に帰るカラスの群れが通り過ぎていきました。重い体を引きずって、洗面台の鏡を見ると、化粧の崩れた顔が、ピエロのように滑稽でした。熱いシャワーを浴びると昨晩からのお酒も、洗い流されてゆくようです。今日はまた仕切り直し、飲めるまで飲むのが私の仕事でありました。

花の刺しゅうが施された赤いスーツドレスを着て、きれいにカールされた髪をかき分けてたばこをくわえ、得意げでした。たくさんの男の客たちとお酒を楽しみ、酔いしれました。「楽しくて仕方がないの」と心は叫ぶようでした。世界を手に入れたような気持ちで、星空の下、金のチェーンのバッグを振り回しながら帰りました。それなのにどうしてでしょう。心の隙間に「死にたい」というつぶやきが生まれていました。

「死にたい」。駅で電車を待っているときも、心はそうつぶやいてじっと線路を見つめました。街で信号待ちをしているときも、走りゆく車を見つめては「死にたい」と道路に心ひかれました。ふと空を見上げると、それは何の色彩も持たない灰色で、この世界に意味がないことを教えるようでありました。「死にたい」

その私をイエス様はじっと見つめておりました。黙してただ、見つめていたのです。その沈黙は、恐ろしいほどでありました。私を抱きしめるでもなく、招くでもなく、ただじっと見つめておられたのです。私の心があなたを探し始めるまで、私の命があなたを求め始めるまで、イエス様はただじっと見つめて、待っておられました。決して私の手を無理に引いて、こちらに来いとは言われませんでした。たとえばそうであったならどうだったでしょう。私はイエス様の手を振り払ったことでしょう。そして汚いものを見るように、言ったことでしょう。「神様とかを信じている人を見ると、ぞっとするの。この世の何も知らないから、そんな幸せなことを言っていられるのだもの」

私は愛や善きものを、この世で最も汚いものであるかのように嫌っていました。代わりに美しいものと言ったら、分厚いお財布を開いて買った、宝石のちりばめられたライターや耳飾りでありました。それらは神様や愛なんかよりもよっぽど私のそばにあって、私を守ってくれたのですから。

イエス様であっても、己を憎む者を救うことはできないのです。ただ、泣かれておられたことでしょう。いつかイエス様がこの地にあって嘆かれた言葉が心に響きます。「めんどりが翼の下にそのひなを集めるように、わたしはおまえの子らを幾たび集めようとしたことであろう。それだのに、おまえたちは応じようとしなかった」(マタイ23:37)。そのように、イエス様に背を向けて、己の道を歩もうとする私を見つめて嘆かれていたことでしょう。

「イエス様、わたしの十字架は重すぎて背負えないほどです」。そう途方に暮れる今日の私に、イエス様の手のひらと足に刻まれた、くぎの穴が見えるようです。そのくぎの穴は、私の罪にほかならないのです。命に代えて、私に命をくださった方のために、私も命をささげたいと思うことはあまりに自然なことではないでしょうか。何をささげても足りないから、私の持っているもので一番大切なもの…「命」をささげる。そしてそのことが ‘真の命’ を得ることになるのですから、神様のなさったことは何ということでしょう。

イエス様に背を向けて、若い私は自分のか細い足でまだまだ歩いてゆきました。その足は、陰府(よみ)へと向かっていることに気付きながらも、もっと暗いほうへ、もっと深みへと足を進めていったのです。私は深く、罪に病んでおりました。イエス様は「丈夫な人には医者はいらない。いるのは病人である」「わたしがきたのは、義人を招くためではなく、罪人を招くためである」(マタイ9:12、13)とおっしゃいました。このお方は、まさに私のために来てくださったお方であったのです。

さくら色の花びらで縁取られたさくら時計がくるくる回り、時計盤がきしむ音の中に、「花を育てている女なんて大嫌い」と若かりし私の甲高い声が聞こえてきます。今日私は花に水をやりながら歌を歌っております。私が本当は、ずっと花を愛したかったことを、イエス様は知っておられました。だからこそ、小さな庭のあるこの家をお与えくださったのでしょう。

そんな若かった私の周りでも、結婚のうわさをよく聞くようになっていました。飲み友達も、あれよあれよと結婚しはじめ、誘いにくくなってゆきました。私と同じくいい加減に仕事をしていた飲み仲間たちも、手堅い就職先を見つけては、家庭人へと変わってゆきます。

いつの間にか私も、‘若い’ とは言えない年頃になっていたのです。働いている飲み屋さえ、自分よりもずっと若い娘たちでひしめくようになっていました。はしごを外された気分でした。気付けば私の居場所は、この街のどこにもなくなっていたのです。

浴びるように飲んだお酒でくらくらしながら、明け方の街をさまよっておりました。自分の庭のように思っていた繁華街が、まるで見知らぬ街に思えます。私はついに恐ろしくなり、地べたに尻もちをついてしまいました。白けた空を見上げると、ゴミを漁りに来た鳥たちの群れが、空にひしめき合っておりました。私はバッグをまさぐると、ハルシオンの瓶を取り、ありったけ頬張っておりました。街がぐるぐると回り、空がぐらぐらときしんでひび割れ、その破片が降ってきます。バラバラと落ちてくる空の破片に引き裂かれそうで、私はついに気絶をしました。はた、と目を覚ますと一秒もたっていない気がしました。私は立ち上がり、からだに着いた土ぼこりを払うと、ふらふらと歩き出しました。倒れたところで誰も助けてくれないと、私は強くなっていたのです。(つづく)

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◇

星野ひかり(ほしの・ひかり)

千葉県在住。2013年、友人の導きで信仰を持つ。2018年4月1日イースターにバプテスマを受け、バプテスト教会に通っている。

■ 星野ひかりフェイスブックページ

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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