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み使いダニエル

(み使いダニエル)ケンのものがたり 星野ひかり

2020年8月13日13時33分 コラムニスト : 星野ひかり
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(み使いダニエル)リカのものがたり 星野ひかり+

ダニエルは、空の霧の中に身を横たえて、大雨の跳ねる町の路上を見つめていました。路上には暗闇よりももっと深い、闇があふれておりました。その闇は悪魔の懐のようであり、その闇の中に、傘もささずにフードをかぶって震えている青年が立っておりました。

ダニエルは大きく息をつきました。ダニエルの息は風に混じって、七色の光を帯びました。(あなたはどこにいるのですか。)ダニエルはつらそうに、青年を見つめました。

ケンはヘッドホンから流れる激しい音楽で脳をしびれさせ、頭を左右に振りました。震える手で先ほど薬局で盗んできた薬をジャラジャラと口の中に放り込み、エナジードリンクで喉の奥に流し込みました。柔らかい手のひらで顔を撫でつけながら、薬が効くのを待ちました。「早く遠ざけてくれ、この世界から・・・」。そうつぶやくケンの頬は、涙で濡れておりました。

気が付くと、ケンは四畳半のカーペットの上でうずくまっておりました。いつの間にか自分の部屋に帰って来たようですが、何も覚えておりません。カーペットは所々模様のような染みになっており、それがジュースをこぼした跡なのか、はたまた自分の血の痕跡かも識別が付かないほどでした。ケンは音楽を大音量で流すと、この絶望的な暮らしぶりを、色鮮やかな音階で塗り込めるのです。

薬があれば、そしてイカシタ音楽があれば、ケンはまぶたを開くことができました。・・・そうでなければ直視などできるものでしょうか。ケンは定職に就くこともないままに、間もなく30歳になろうとしており、金づるの母親からも、ケンの将来を案じる電話がひっきりなしにかかってくるのですから。

「お前のせいだ」。ケンは鋭いまなざしで、壁をにらんでおりました。(あんな母親じゃなかったら)(あんな学校に行かされなければ)(あんな先生じゃなかったら)(もっといい友達がいたら)(仕事に就くことができていたら)・・・こんな社会じゃなかったら、俺はこんなふうにはなってはいなかった。

そんなケンの背後には、悪魔が忍び寄っておりました。そして、悪魔はケンの心臓をわしづかみにして、ごうごうと激しい炎をたくのです。(そうだ、お前は素晴らしい。お前の素晴らしさを私だけは知っている。それを認めずにこんなチンケな部屋に追いやる、社会を憎め、世界を、人間を、憎むのだ。)炎はケンと一緒になって、燃え上がっておりました。

カーペットに転がっている錆びたハサミを握りしめ、胸に当てがい力を込めます。じりじりと焼けつくような熱を伴って、血の雫が流れ落ちます。その血の赤く、焼けるように熱い痛みが、ケンに生きていることを教えます。

ケンは、まるで幻影の中に生きているような錯覚に陥ることがありました。まるで自分が透明のカプセルの中にいて、そこから世界を見ているように感じられるのです。だから盗みをしても平気ですし、誰を傷つけても平気です。だって、他者というものが自分と同じく、脆くて傷みやすい心を持っているなんて、ケンには分からないでいるのですから。

だからケンは孤独でした。他者のいない世界で、たった一人で生きるようなえもいわれぬ恐怖がつきまとい、生まれてきたことすら呪っていました。それでも胸にうずく痛みと、ほとばしる血は、ケンが生きていることを教えます。それは絶望でもあり、また安どでもありました。

「死にたい」とか、「こんな命は無価値だ」とか、そう何度つぶやいてみたところで、それでもケンは生きていたかったのです。何もなくとも、空虚な日々でも、それでも生きていたい、その気持ちはどこから湧いてくるのか分かりませんでした。

ダニエルはケンの部屋の隅にたたずみ、ケンを見つめてつぶやきました。(あなたはどこにいるのでしょうか。そしてどこへ行くのでしょうか。「滅びに至る門は大きく、その道は広いのです。そこから入っていく者が多いのです。命に至る門はなんと狭く、その道もなんと細いことでしょう。そしてそれを見出す者はわずかです」(マタイ7:13))ダニエルの瞳は悲しみの粒できらめいておりました。

悪魔はそれを聞いて、勝ち誇ったように笑いました。ケンの心臓は悪魔の血で、もはや真っ黒に染まりきっているのですから。悪魔はそのままずるずると、ケンを黄泉の暗闇の深みにまでひきずって行こうとしていました。そこには昼も夜も炎がたかれ、乾いた風が吹き荒れて、もはや光も届くことはなく、神の名を呼び求める者も現れることもない所だというのです。

「いいから金を振り込めよ!」いくら声を振り絞っても、受話器越しの母親はうんともすんとも言いません。沈黙が続いたあとで、母親は大きくため息をつき、「あなたなんて生まなきゃよかった・・・」と独り言のようにつぶやきました。その言葉は、ケンの心をえぐりました。

「今から殺しに行く。待ってろよ」。そう言うと、ケンは錆びたハサミを握りしめて家を飛び出しました。心は怒りで燃えています。炎がめらめらとケンを包んでいるようでした。「殺してやる、殺してやる」。つぶやきながら涙がぽろぽろ落ちました。殺意でほてった腕でハサミを強く握りしめ、ケンはそのまま自分の胸を刺しました。

気が付くと、白い天井が見えました。ケンは狭く固いベッドの上に寝かされているようでした。動こうとしても体中が縛り付けられているようで、身動きが取れません。見渡すと窓に格子のはめられた小さな部屋には、ケンの他に誰もいませんでした。

「誰か・・・」。叫ぼうとすると、胸に激痛が走りました。それでも声を振り絞ろうとしましたが、口がうまく動かずに、よだれだけが滴りました。

いつの間にか眠っていたのか、再び目を開けると、何人もの白衣を着た人たちに見下ろされておりました。「僕はどこにいるんですか」。今度は何とか言葉にすることができました。一人の医師が、道端で自傷行為をして運ばれたいきさつや、薬物の過剰摂取が疑われたため胃洗浄もした話をしてくれました。そして眼鏡の奥の目を細めると、「今までよく頑張ったね。ここでゆっくり休みなさい」と言ってくれたのです。固く冷え切った心は、突然のねぎらいの言葉に驚きました。(今までよく頑張ったね。)そんな言葉、誰からも、ましてや自分からも聞いたことがあったでしょうか。

起き上がれるようになると、タバコを吸いに病室を出してもらえました。喫煙室の壁伝いに置かれているベンチはすべて満員で、パジャマ姿の女の子がギロリとこちらをにらんでいます。やけに愛想のいい男の子が、紐で壁にくくられたライターを差し出してくれました。

「こんにちは。俺は金星から来たんだ。この世の秘密、知っているから何でも聞いてほしいな。君を導いてあげるよ」。そう言って火をつけてくれました。ケンは火をもらい、久しぶりのタバコを吸い込みました。

すると、ピンク色にフリルやリボンのたくさんついたワンピースを着たおばさんが立ち上がり、「誘惑するな、サタンめ!」と言って大事そうに抱えていた「聖書」と書かれた本を開いて大きな声で叫びました。「世の終わりの時、にせ預言者やにせ使徒たちが現れて、あわよくば聖徒たちをも誘惑しようとするだろう!」そう言って手を振りかざします。

ケンは目を丸めました。しかし、不思議です。今まで長続きもしなかったバイト先で、そして昔学校や塾で顔を付き合わせていた人たちよりも、彼らはずっと安心できる気がしたのです。

それからケンは、知能テストや心理テストや医師による診察を受けて、幾つもの病名が与えられました。そしてケンは障害者手帳を申請し、「障害者」となりました。なぜでしょう、ケンはどこかしら安心しました。普通に生まれたはずなのに、生きづらさにあえぐばかりだったけれど、「もう頑張らなくていい」そう思えたのです。

喫煙所では、ピンクフリルのおばちゃんが、相変わらず「聖書」を開いて演説をしております。「狭い門から入れ。滅びに至る門は大きく、その道は広い。そこから入って行く者が多い。命に至る門はなんと狭く、その道は細い。そしてそれを見出す者は少ない。にせ預言者を警戒せよ。彼らは、羊の衣を着てあなたがたのところに来るが、その内側は強欲なおおかみである」(マタイ7:13~)

ケンは半笑いでそれを見つめておりました。すると、どうしたことでしょう・・・窓から光が差し込んで、光はあめ色の糸となり、淡い像を結んでゆくのです。美しいみ使いの姿が、一層まばゆい光の線となって現れて、そのみ使いは、ピンクフリルのおばちゃんを後ろから抱きしめていたのです。それは愛おしそうなまなざしで、おばちゃんの横顔を見つめており、おばちゃんもそれが見えるかのように、ほほ笑み返していたのです。

おばちゃんはまたケンのほうを向くと、「狭い門からお入りなさい」と、まるでみ使いの言葉のように、それは優しく言ったのです。

まばたきほどの白昼夢を、ケンは忘れることができませんでした。またみ使いに会える気がして、ケンはおばちゃんの演説に毎日耳を傾けました。おばちゃんは、聴衆ができたとあって意気込んで、聖書を始めから読んで聞かせてくれました。

「はじめに神は、天と地とを創造された。地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた・・・神は『光あれ』と言われた。すると光があった。神はその光を見て、良しとされた・・・」(創1:1~)

意味はよく分かりませんでしたが、不思議です。その言葉のつらなりの向こうに、光の糸で結ばれた美しいみ使いたちと、そして神様の存在が感じられる気がしたのです。

退院の日は、母親が迎えに来てくれました。ケンは恥ずかしくて母親の顔を見ることができませんでした。母親はとげとげしさのなくなったケンを見て、うれしそうにはにかみました。

4カ月の間一緒に暮らした入院仲間が見送ってくれました。ピンクフリルのおばちゃんは、大切にしていたはずの聖書をケンに差し出すと、「狭い門から入りなさい、その門を見つけなさい」と言いました。ケンはほほ笑むと、聖書を受け取って胸に抱きかかえたのでした。

病院を出ると、霧の深い朝の空が広がっておりました。ケンはふと足を止めて、真っ白に染まった空を見つめました。不思議と、生きることが怖くないような、そんな気持ちが湧き上がるのです。

ダニエルは、雲の中でケンを見つめておりました。(大丈夫、その足でお行きなさい。)そうささやいた声はあめ色の色彩を帯びた風となって、ケンを包みました。

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◇

星野ひかり(ほしの・ひかり)

千葉県在住。2013年、友人の導きで信仰を持つ。2018年4月1日イースターにバプテスマを受け、バプテスト教会に通っている。

■ 星野ひかりフェイスブックページ

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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