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はっつぁんとかおる姫

はっつぁんとかおる姫(5)長い夜 星野ひかり

2018年12月23日23時58分 コラムニスト : 星野ひかり
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かおるは、通帳とにらめっこをしていました。はっつぁんのために、暖かいダウンジャケットを買ってあげようと思ったのです。しかし、生活費を切り詰めても、ダウンジャケットを買えるだけのお金は見当たりません。カレンダーを見上げてため息をつきます。お給料日まであと半月もあるのですから。

間もなく2月に入ろうとしています。この2月の寒さを乗り切れば、暖かい春が来ます。かおるは、この冷たい夜も暖房をつけず、部屋でもコートを着たままで過ごしていました。お金に余裕のないこともありましたが、はっつぁんと同じ寒い夜を感じていたいと思ったのです。

時折肩をすくめては、息を手にかけて温めました。しかし心は熱く燃えていました。誰かを想う気持ちは、こんなに温かなものなのだと、胸の熱さを確かめるようにそっと手を置きました。「はっつぁん、頑張って。もうすぐで春だよ」

今年は例年まれに見る寒さ。明後日には大雪の予報も出ています。凍てつく夜があと何度繰り返されれば、暖かな春になるのでしょうか。鳩やからすやすずめたち、野良猫や野ネズミも、凍てついた体を丸めて夜をやり過ごし、春が来るのを待っています。

*

木曜日の正午、かおるはテレビにかじりついておりました。テレビは今夜の大寒波と大雪の予報を一斉に報じておりました。女子大生のような愛くるしいキャスターが真剣な顔で話します。「夜のうちに20センチの積雪が見込まれます。交通機関にも影響が出る模様です」

かおるは窓越しに空を見ました。分厚い雲が空を覆って、パラパラと小雨が降っています。窓を開け、ベランダに身を乗り出して手をかざすと、雨粒がさっと溶けました。「もうみぞれになる・・・」

背中の向こうではお鍋がぐつぐつ煮えています。はっつぁんに持ってゆくためのミネストローネスープです。豪雪の予報に、いてもたってもいられずに大きな水筒にアツアツのまま注ぎ込んで持ってゆくつもりなのです。また、コンビニの袋の中にはありったけのお金で買ったホッカイロが入っていました。

「電車が止まる前に届けに行こう」。かおるはパジャマを脱ぎ捨てて、服を幾重にも重ね着をして、コートを羽織りました。大きなエコバックにはっつぁんに渡すものを詰め込みました。暖かなスヌードも詰めました。

駅に着く頃にはみぞれが雪に変わっていました。アスファルトにうっすらと白く膜を作っては溶けてゆきます。木々も雪を受け止めては、小さな葉をしならせます。町の喧騒は、雪の中で声をひそめ、雪がしんしんと降る音だけが聞こえていました。

電車に乗り込み、ドアのそばに立ち、ガラス越しに景色を見ました。ふと、自分は何をしているのだろう、と思いました。自分のことさえ満足にできやしないのに、人のために懸命になっている自分がなんだか滑稽に思えたのです。力ない笑いを浮かべ、「いいじゃん」とつぶやきました。

そして思い出したのは父親のことでした。父親をこんなにも憎たらしく思っている自分は、神様の前にあげる顔すらありません。何をしたって、誰に尽くしたって、その罪は消えることはありません。自分が裸の王様のように思えました。素っ裸なのに立派なローブを羽織って玉座に座っているのです。そして拳をふるい、刑の宣告を繰り返します。

「あいつは悪い!」
「あいつは悪くない!」
「あいつは裁きに値する!」
「あいつは情けに値する!」
「あいつは好きだ!」
「あいつは嫌いだ!」
「あいつは殺してしまおう!」
「あいつは生かしておこう!」
「あいつのことは許さない!」
「あいつのことは許してやる!」
「おまえは幸せになってもいい!」
「おまえはだめだ!許さない!」

拳をふるい、裁判は終わることがありません。かおるは、そんな自分を思い浮かべてまた笑いました。そして胸に手を当てました。自分の胸の中心、イエス様が座るべき玉座のある所です。イエス様の王座を奪い「この椅子を明け渡してなるものか!」と叫んでいるのです。

ブザーとともに扉が開き、ホームに降り立つと、滲んだ涙をぬぐいました。自分勝手な私でしかないけれど、はっつぁんが大事な友達なことに変わりはない。そうつぶやいて一歩一歩歩きました。ホームにも雪が積もり始めておりました。

顔をあげ、空を見上げると、空の遠くから雪がぐんぐんと迫りながら降りしきっておりました。不思議に思いました。はっつぁんを苦しめる残酷な雪でありながら、こんなにも美しいのですから。・・・それはまるで、罪穢れに満ちた世界を、神様の心の白で包み込もうとしているかのようでした。

公園にはもう人気がありませんでした。鳥たちが椿の木立に止まっては、きょろきょろといつもと違う世界を眺めております。伸び切ったタートルネックを、喉元までたくし上げ、白い息を吐きました。

「はっつぁん」。公衆トイレの裏のベンチに、はっつぁんはおりませんでした。「はっつぁん?」。小さく名を呼びながら、公園を歩きました。まつ毛に雪が張り付き、手でこすって進みました。大きな白い花の咲く生垣の下に、段ボールにくるまる人影を見つけました。

「はっつぁん?」。慌てて駆け寄ると、はっつぁんが毛布と段ボールを体に巻き付けて眠っていました。心なしか、顔が火照っているように思い、おでこに手をやろうとすると、それをゆっくりとはねのけながら、はっつぁんが目を覚ましました。

「かおるちゃん、こんな日に来ちゃダメだよ」。「はっつぁん?大丈夫?」。身を起こすはっつぁんの様子は、「大丈夫」なようではありませんでした。いつもよりもぼんやりとし、熱があるのが見て取れるようでした。

「はっつぁん、今日は私の家に来て!」。かおるはとっさに言いました。「こんな所に寝ていたら、もっと具合が悪くなっちゃう。今日は大雪になるの。一緒にうちに来よう!?」

はっつぁんは、笑って手を振りました。「これでもおじさん男なんだ。女の子が男の人を家に入れてはだめだぞ。・・・おじさんこれでも丈夫なんだ。ちょっとやそっとじゃ大丈夫。今までだって大丈夫だったんだから」。そう優しく諭すのです。

「じゃあ病院に行こう、きっと風邪をひいているよ?嫌なら教会に行こう!先生に話せば一晩くらい泊めてくれるよ!」。はっつぁんはまたも手を振り、「おじさんもな、これでも男でプライドもあるんだ。人の世話にはならない。それにな、雪は昔から好きなんだ。・・・雪もな、積もったら案外あったかいんだ。知らないだろう?」

かおるは顔をゆがめて懇願しました。「ダメだよ、はっつぁん!そんなのはだめ!」。それでもはっつぁんは聞きません。首を振って「大丈夫だ」と笑うばかりです。

「具合が悪そうなのに、一人きりにしていられない」。かおるも譲りませんでした。しかしはっつぁんは生垣の白い花を手に取り、「ほら、サザンカも雪に映えてこんなにきれいだ。今夜はサザンカと一緒に、雪を存分に楽しむんだよ。心配しないで早く帰りなさい」と、サザンカをかおるの胸ポケットに挿し込みました。

かおるははっつぁんの隣にうずくまって、バッグから水筒とホッカイロを出すとはっつぁんに渡し、スヌードをはっつぁんの首に掛けました。「うちに来ないのなら、私もここにいる」

そう言うかおるに、はっつぁんは諭すように話しました。「おじさんの生まれた所は、雪深い所でね、こうしていると故郷を思い出すんだよ。不思議だな。嫌なことばかりだったはずなのに、過ぎ去ってみると、本当に良い思い出しか残っていないんだよ。・・・今日はそんな思い出と一緒に雪を見ていたいんだ。だから一人にしてほしい」

はっつぁんはじっとかおるを見ました。かおるは、頭まで雪に濡れ、ざんばら髪から雨粒を滴らせておりました。そして、こんな若い女の子につらい思いまでさせて、心配をさせている自分が、とても情けなく思えていました。

「どうか、一人にしてほしい、かまわないでほしいんだ」。自分にいら立ち、冷たくそう言いました。そして立ち上がると、いつもの公衆トイレの裏のベンチに行き、横になりました。かおるも追うように、はっつぁんの寝ているそばに立ちました。

「はっつぁん?」。何度呼び掛けても、はっつぁんは振り向きもしませんでした。はっつぁんの胸は、自分へのいら立ちでパンパンに膨らんでゆきました。そしてついに、「いいからほっといてくれよ!」と、大きな声を出したのです。

かおるは、ぽつりと涙を落とし、とぼとぼと歩き出しました。自分には何もできないような無力感が、かおるの胸をふさぎました。

雪は世界の音を吸い込むかのように、しんしんと降り積みます。静寂というよりも、無音の世界が広がってゆくようでした。しんしんと降り積む雪は、己の孤独のようでした。はっつぁんから一歩一歩離れるごとに、心がちぎられるように痛みます。それでもまた一歩、足を踏み出して歩きます。

電車は雪のために遅れており、ホームでは随分と待ちました。列車を降りると駅前の商店は「雪のため閉店します」と張り紙を出し、シャッターを下ろし始めていました。記録的積雪とも予報されている、夕方から夜にかけてに備えているのでしょう。

どこにも帰りたくないのに、足は家へ向かいます。・・・はっつぁんのそばにいたかったのです。どんなに危険な夜であっても、共に過ごせば助け合える。そんな確信がありました。

雪の粒は次第に大きく膨らんで、強まった風とともに吹き付けます。見上げると、見通せないほど遠くから、雪はやってくるようでした。この冷たい世界に置き去りにされたように段ボールにくるまったはっつぁんを思うと、胸が張り裂けるように痛みます。

町には家がこんなにたくさんあるのに、はっつぁんの入る家がないことが許せない気持ちにもなりました。「どうかすべての家が、すべての凍えた命を、入れてやれるようになりますように」。そんな子どもじみた考えで、心を熱くほてらせても、自分には何一つできないくせにと、悲しく思いました。

割り切れぬ思いが幾重にも重なって、子どものように泣きじゃくって歩きました。道行く人が、心配そうな眼差しでかおるのほうを見ていました。

長い夜でした。かおるはほとんど一睡もせずに、窓から外を見つめていました。夜が更けるごとに、雪は激しさを増してゆきます。空も道路も、家々の屋根も真っ白です。外灯がそれを照らすので、水銀色に発光した世界が見渡す限りに広がっておりました。

次第に雪は弱まって、粉雪に変わりました。朝には雪はやむでしょう。かえったばかりのひな鳥のように、かおるは不安げに空を見て、太陽の訪れを待ちました。

雪がやんだらはっつぁんの所に行くんだ。きっと雪に凍えて濡れているから、一緒に病院に行くんだ。そうつぶやきながら、かおるは窓辺にもたれたままうとうとと眠っておりました。

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◇

星野ひかり(ほしの・ひかり)

千葉県在住。2013年、友人の導きで信仰を持つ。2018年4月1日イースターにバプテスマを受け、バプテスト教会に通っている。

■ 星野ひかりフェイスブックページ

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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