こころと魂の健康(59)心と信仰の傷から自由となるために 渡辺俊彦

2018年2月3日19時01分 コラムニスト : 渡辺俊彦 印刷
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現代の社会は、社会病理がまん延し染みついているような状況です。それだけ、何らかの深い心の傷(トラウマ)を負っている人が多いということです。そして、人々は心の傷から自由になることを願っています。しかし、心の傷から自由になりたいと願いながら、心の傷に支配され苦しんでいる人が後を絶たないのが現状です。クリスチャンにとっては、心の傷だけではなく信仰の傷が伴ってしまうことが多いのです。クリスチャン病理あるいは教会病理と言ってもよいのかもしれません。

さて、自分を不自由にしている心の傷はどのような傷でしょうか。体についた傷は、誰でも確認することができます。ところが、心の傷は大きさも深さも確認することができません。しかも、私たちは心に傷を受けたとき、心が苦しんでいることを感じます。その心の傷は、攻撃的な言葉や何らかの暴力(身体的、心理的)によって受けた傷などによるものが少なくありません。また、私たちが心理的に自分の存在価値を否定されたり、何らかの必要性を無視される経験を通して傷となることもあります。それは、非人間的に扱われたということに他なりません。

このような扱いを受ける時はどんな状況でしょうか。それは、自分自身が何らかの弱さを感じ、人の助けを必要として精神的に落ち込んでいるときではないでしょうか。このような時に非人間的な扱いを受けると、心と信仰に傷を受けてしまうものです。その結果、自分で心に壁をつくり、黙ってしまいます。その心の壁が人との親密な関係を妨げてしまうのです。そのため、心の壁を取り除くまで、心の傷から自由になることができません。

時々、相談を受けるケースに次のようなことがよくあります。クライアントは、「『先生、私が弱り苦しみを感じているときこそ、神様を信頼し祈らなければならないことを知っています。でもつらくて祈れません』と牧師に話すことが度々ありました。その時、牧師から『それは不信仰です』という言葉を何度も聞きました。それ以来、何をしていても私の心から『それは不信仰です』という言葉が離れません。先生、『私の信仰は駄目なのでしょうか。しょせん、私は不信仰ですから駄目ですよね』」と訴えます。

私たちは、クリスチャンであっても生身の人間です。そして、苦しみや悲しみを味わっているとき、人の助けを必要とすることが多々あります。そして、「助けて」と叫ぶことがあります。私たちは苦難のただ中にいるとき、祈る力などありません。それほど人間は強くないからです。

そのような時にこそ「共同体的祈り」が必要であるにもかかわらず、「それは不信仰です」と言われてしまう。この言葉は、人の存在と信仰の否定であり、非人間的な扱いとなってしまいます。そのため、心だけではなく、信仰も一緒に傷ついてしまうことになります。

イエス様は、弟子たちに「信仰の薄い者よ」とおっしゃった。イエス様は決して弟子たちを「不信仰な者」として扱っていません。イエス様の優れた牧会の姿を知ることができます。

さて、私たちが心や信仰の傷から真に自由になるためには、赦(ゆる)すということが必要です。私たちの内に赦すことが起こると、私を傷つけた人を受け入れ、愛せるようになっていきます。そこから、心の自由を取り戻すことができるのです。

しかし、現実はそう簡単なことではありません。なぜなら、人は心や信仰の傷を覆い隠して、自分には価値がないと思い込んでしまい、そこから抜け出せないからです。このような人は、「私には何の価値もないのだから、こんなことをする資格などありません」「私は幸せになってはいけないのだ」「奉仕をする資格などないのだ」などと無意識に、1日何百回も何千回も自分に言い聞かせています。そして、自分自身を受容できず、自分を責め苦しむ人が後を絶ちません。また、生きづらさを感じている人も多いのです。

それだけ、生きることに自信を失い、前に進めない人が多いということです。また、あらゆる人に不快感や不満を抱くようになる人もいます。この心の反応は、私たちが誰かを傷つけたことによって感じる感情ではありません。むしろ、私たちが誰かに否定されたという出来事を通して感じる感情です。

先日、1つの文章と出合いました。要約すると次のようになります。ある1人の女性が体調不良のため、紹介状を手に大学病院の内科を受診したというのです。さまざまな検査の結果、どこにも異常はありませんでした。そのため、心療内科に回されました。そこで、成育歴から今に至るまでの振り返りがなされました。そして、彼女は無条件に愛される経験が乏しかったことが分かりました。そのため、心と心がつながっているという感覚が、誰ともなかったのです。どこにいっても厄介者、邪魔者として扱われてきました。そのため彼女は、「私は愛される価値がない」「幸せになってはいけないのだ」と感じて、心を蝕んできたのです。

彼女は、カウンセリングなどさまざまな治療を受けました。しかし、彼女の症状は何一つ改善しないまま、時間ばかりが過ぎました。とうとう彼女は担当医に、「先生、私は先生を殺したくなりました」と伝えたのです。これは、彼女の心の傷からくる叫びです。担当医は、悩んだすえ、彼女を自分の家に引き取ることにしました。

彼女は担当医の家で、何年も家族のように暮らしました。やがて、彼女の心が安定し自立していきました。担当医の家で愛情をたっぷり受けて、育ち直しをした結果、心の傷が癒やされ回復したのです。それは、愛されるとは何かを学習し直したということに他なりません。否定的で非人間的な扱いではなく、肯定的で人間的な扱いを受け続けたことによって起こった転換です。そして、神様の愛も分かるようになったのです。

私たちは、「不信仰」という言葉を海の深いところに投げ捨てることが必要かもしれません。むしろ、「共同体的祈りをもってあなたを支えます」という言葉を獲得したいものです。そして、本当に人の助けを必要としている人々の心と信仰の叫びに、真摯に向き合う対人援助者(祭司的機能)の専門性を身に着けてほしいと願います。

イエス様は、ヨセフやマリアから豊かな愛情を受けて成長しました。しかし、公生涯は、人々から否定され、非人間的な扱いを受けることが多い人生でした。その頂点が十字架です。イエス様は罪のない聖い方です。そのイエス様にとって十字架の苦難は、非人間的で否定的に扱われた最たる現実です。

しかも、人々は「お前が神の子なら十字架から降りてみよ」と叫び罵倒しました。十字架上のイエス様は、人々から非人間的、否定的、拒否的に扱われた二重三重の苦難を味わったのです。その苦難の中で「父よ。彼らをお赦しください」と祈りました。イエス様こそ人々の非人間的で否定的かつ拒否的な態度に真摯に向き合い、苦難の中で人を赦した方です。

本当に自由な方はイエス様です。だからこそ、何よりも私たち自身が自由となる必要があります。そこからしか、心と信仰の傷から自由となる回復の働きをなすことができないのではないでしょうか。

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渡辺俊彦

渡辺俊彦(わたなべ・としひこ)

1957年生まれ。多摩少年院に4年間法務教官として勤務した後、召しを受け東京聖書学院に入学。東京聖書学院卒業後、日本ホーリネス教団より上馬キリスト教会に派遣。ルーサーライス神学大学大学院博士課程終了(D.Mim)。ルーサーライス神学大学大学院、日本医科大学看護専門学校、千葉英和高等学校などの講師を歴任。現在、上馬キリスト教会牧師、東京YMCA医療福祉専門学校講師、社会福祉法人東京育成園(養護施設)園長、NPO日本グッド・マリッジ推進協会結婚及び家族カウンセリング専門スーパーバイザー、牧会カウンセラー(LPC認定)。WHOのスピリチュアル問題に関し、各地で講演やセミナー講師として活動。主な著書に『ギリシャ語の響き』『神学生活入門』『幸せを見つける人』(イーグレープ)、『スピリチュアリティの混乱を探る』(発行:上馬キリスト教会出版部、定価:1500円)。ほか論文、小論文多数。

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