トランプ大統領の一般教書演説 そこから見えてくる米国の2018年

2018年2月2日14時56分 執筆者 : 青木保憲 印刷
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米連邦議会で一般教書演説をするドナルド・トランプ大統領=1月31日(写真:ホワイトハウス / Shealah Craighead)
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第45代米大統領ドナルド・トランプ氏が1月31日、連邦議会で「一般教書演説(State of the Union Address)」を行った。米国では「予算教書」「大統領経済報告(経済教書)」と合わせて三大教書と呼ばれ、一般教書演説は毎年1月最終週の火曜日に、大統領が上下院議員向けに国の現状について演説を行うことが慣例化している。同時にこれは、国内外の主要な政治的課題に対する大統領とその運営チームの見解を述べる機会でもある。さらに、大統領個人としても、過ぎし1年間で自分がどれほど頑張ってきたかを議員たち(当然テレビ中継されるため、結果的には全世界に)アピールする場とも言い換えることができる。トランプ氏にとっては、ここできちんと米国民に自己アピールしておくことで、今秋行われる中間選挙に弾みをつけたいはずだ。

実は、大統領は議会出席権を持っていない。合衆国憲法の規定では書面で「教書」を議会に送付することが認められているだけである。しかし慣例として、議会による特別な招待を受けて作成した本人(当然、どんな内容にするかはスタッフと協議している)が口頭で「演説」といった形で披露することになっている。このあたりのバランス感覚がいかにも米国らしいと思わされる。

最近の小中学校でよく行われる「到達度自己診断」が、国を挙げての年中行事になったと考えると分かりやすい。ネットなどではすでに、今回の教書全文が開示されているし、日本語にも翻訳されている。おそらく世界のほとんどの言語に訳され、あっという間に全世界へ拡散していったことだろう。

この教書の内容をチェックすることで、米国がどこへ向かおうとしているのか、国の為政者(大統領)が米国をどこへ向かわせようとしているのか、がおぼろげに見えてくることになる。今回はその中身をひもときながら、米国の2018年を予想してみたい。

一般教書演説の面白さは、米国民なら誰でも知っている卑近な話題を取り上げ、そこに関連した人々を会場に招待することで、話の信ぴょう性を高めようとすることにある。「論より証拠」とでも言うべきか。

今回は、昨年8月の大型ハリケーン「ハービー」によるテキサス州ヒューストンの壊滅的な破壊を取り挙げている。被害に遭った人々を救助するために尽力した下士官の活躍を述べ、本人を紹介。同じようなパターンで、カリフォルニア州の火災で人命救助に活躍した消防士も紹介された。最後にラスベガスの銃乱射事件にもコメントし、これらの悲劇にもめげず、国のために尽くすことの尊さを訴えた。「合衆国が強さを示せるのは、米国民が強いからだ」と冒頭の言葉を締めくくる。個々人と連邦の強い絆をアピールすることが狙いのようである。

次いで披露されるのは、この1年間のトランプ氏の実績である。自分で自分を褒めるというのだから、少し日本では抵抗を感じるところだろう。しかしこれは大統領にとって、人々が評価する基準を示すものである。決してないがしろにはできない。主にアピールされたのは以下の項目だ。

  • 240万もの新しい雇用を創出したこと。
  • 米国史上最大規模の減税を行い、それが中産階級や中小企業に多大な支援となったこと。

「オバマケア」への言及は、彼の公約でもあったため、特に強調されたということができる。年収5万ドル以下の世帯への大幅な減税を行ったことで、「悲惨なオバマケア(disastrous Obamacare)」の核心を廃止できた、とトランプ氏はアピールした。さらに「米国を信じ、熱心に働くなら、あなたはきっと何か夢をかなえることができる」と続け、「新しい米国の誕生の瞬間だ」とすら言いきった。

この後は、退役軍人への手厚いケアをどれほど心砕いて行ってきたかが語られ、次いで自動車産業復興のために、国内に工場を移転させる働き掛けがうまくいっていることを語った。

ここまでの在り方は、今までの歴代大統領とあまり差を感じさせない。雇用の創出と経済状況の向上を訴えることはある意味常套手段であり、「トランプ大統領だから」と思わせるものはあまりない。しかしその後に続く、移民政策を語る段になると、一気に「トランプ色」が濃くなってくる。

移民法に4つの柱を据え、これを改革するつもりであるとトランプ氏はアピールする。これを「21世紀の移民制度」として導入するつもりだ、とまで彼は語る。

第一の柱は、幼少期に両親によって米国へ連れて来られた180万人の違法移民に市民権を与える道を拡大すること。しかし教育を受け、仕事を真面目にするという要件を満たし、善良で道徳的な人であることが求められる、と釘を刺した。つまり無条件ではなく、国家としてチェックをするということであろう。

第二の柱は、「南の国境に壁を造る」こと。これに関しては有名なことだろうから、これ以上の説明はいらないだろう。

第三の柱は、無作為にグリーンカード(永住権証明書)を渡すのではなく、社会に貢献できる人、米国を愛し尊敬する人に優先して永住権を与えること。ここでも政府のチェック機能強化が語られている。

第四の柱として語られたのは、移民してきた者たちがその親戚を安易に米国へ呼び寄せることを禁ずるということである。配偶者や未成年の子どもに限定し、直系家族のみを呼び寄せられることにするという方策のようだ。

この辺りは、「アメリカ・ファースト」を訴えてきた大統領らしい主張である。つまり今後も移民や永住権をめぐる諍(いさかい)いが起こり得ることが予想される。

最後に取り挙げたトピックスはやはり外交問題であった。

トランプ氏は「弱さが紛争への確実な道であり、かつてないくらいの力を持つことによって防衛する」と語り、防衛予算の上限を撤廃するよう、議会に働き掛けていくことを宣言した。また、核兵器に関しても「核兵器がない世界」は確かに望ましいが、それは「魔法の瞬間」であって、現実的でないと訴える。これもまたオバマ前大統領の方向性とは異ることをアピールするものである。

その後、イスラエルの首都としてエルサレムを認定したことをあらためて宣言し、国連で米国の主張に反対が多かったこと挙げ、「反対を訴えた国にも毎年何十億ドルもの支援を行っているのに・・・」とぼやきを入れる。

続いて、イランの核合意問題、北朝鮮の核ミサイル問題などに触れ、これらの問題も「米国」という視点からどう捉えるべきかを述べた。

トランプ大統領の一般教書演説 そこから見えてくる米国の2018年
一般教書演説が行われた米連邦議会(写真:ホワイトハウス / D. Myles Cullen)

このような一般教書演説は、米国内に対してであると同時に、世界各国に対して米国がどう向き合っていくかを語るという意味で、ある程度米国の方向性をうかがい知ることができる。

やはり、これらの中に宗教的な要素が少ないのは近年の特徴と言えよう。確かにトランプ氏は、統計上白人福音派の支持を得たことになっている。しかしそこには宗教性を上回る現実的な経済事情があったことは明らかであり、そのことがこの一般教書演説にも反映されていると言えよう。

同時に分かるのは、必死になってトランプ氏が「一つのアメリカ」を紡ぎ出そうとしている様子である。選挙戦ではあれほど分裂と争いを呼び込んだ(とメディアでは思われている)にもかかわらず、やはり「大統領」という立場からは、人々の和解や融合を説き、その「扇の要」たらんとしていることが分かる。オバマ前大統領の「実利」を全否定するような言い回しは、「もはや民主党ではない」「従来の政党政治ではない」というアピールが込められているように思われる。

先日、NHKの「クローズアップ現代」でトランプ政権と福音派の関係が取り上げられた。エルサレムへの首都移転を決断したトランプ政権と、その推進をバックアップする米国福音派という構図であった。しかしその捉え方は、1980年代以降に台頭した宗教右派へのまなざしとまったく変わっていない。あれから40年近くが経過しているにもかかわらず、福音派へのメディアのまなざしは変わっていないようだ。そしてトランプ氏と福音派との本当の距離感をきちんと説明できる視点は、いまだ確立していない。

一般教書演説のようにトランプ氏の生の声を聴ける機会を一つ一つ捉え、それをこうやって考察していくこと。今はこれしかないように思われる。米国の2018年はやはり、内向きの力がさらに支配的になるのだろう。まさか本当に壁を造ることはしないだろうが、かつてのような「アメリカンドリーム」を求めて人々がやってくる新天地とは決してなり得ないだろう。

青木保憲

青木保憲(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院を卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科卒(修士)、同志社大学大学院神学研究科卒(神学博士、2011年)、現在は大阪城東福音教会(ペンテコステ派)牧師。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(2012年、明石書店)。

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