矢内原は「キリスト教ナショナリズム」から「国体論的ナショナリズム」を批判した 赤江達也

2017年9月12日09時04分 執筆者 : 赤江達也 印刷
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赤江達也著『矢内原忠雄 戦争と知識人の使命』
赤江達也著『矢内原忠雄―戦争と知識人の使命』(画像:岩波書店提供)

『矢内原忠雄―戦争と知識人の使命』(岩波新書、2017年)は、『「紙上の教会」と日本近代―無教会キリスト教の歴史社会学』(岩波書店、2013年)につづく、わたしの2冊目の本になります。

この『矢内原忠雄』の中心的な関心は、「キリスト教ナショナリズム」という観点から矢内原忠雄の思想と信仰をとらえる、ということでした。

この「キリスト教ナショナリズム」という概念には、違和感を覚える人も多いかもしれません。というのも、戦後の日本では、キリスト教とナショナリズムは互いに相容れない、対立するものである、という考え・感覚がかなり強いかたちで前提されてきたところがあるからです。

戦後日本のキリスト教思想史では、戦時期のキリスト教の「戦争協力」への強い悔恨と反省から、キリスト教にふくまれるナショナリズム批判の契機が探求されてきました。

矢内原は「キリスト教ナショナリズム」から「国体論的ナショナリズム」を批判した 赤江達也
矢内原忠雄(1930年3月)(出典:『矢内原忠雄全集16』岩波書店)

そうした文脈において、天皇が署名をした教育勅語への拝礼をめぐって生じた「内村鑑三不敬事件」や、矢内原忠雄が日中戦争を批判して東京帝国大学を追われたいわゆる「矢内原事件」が注目されてきました。

つまり、無教会キリスト教の提唱者・内村鑑三やその継承者・矢内原忠雄は、戦前期の日本における「天皇制国家」や「国体論的ナショナリズム」に対するキリスト者の「対決・批判・抵抗」の象徴として理解されてきたわけです。

そのような内村鑑三や矢内原忠雄の理解は、彼らのある一面を的確に捉えていたわけですが、そのわかりやすさゆえに、他の側面が見えにくくなっているのではないか、とわたしは考えてきました。

そのひとつが、無教会キリスト教における「ナショナリズム」の問題なのです。この問題を、矢内原忠雄を通して再検討する、というのが、本書の中心的な課題でした。

矢内原は、たしかにナショナリズムへの苛烈な批判者である。しかし、矢内原自身の思想にも強烈なナショナリズムがふくまれている。――このようなナショナリズムをめぐる両義的なあり方をどのようにとらえることができるだろうか。

このような問いに対して、わたしは「キリスト教ナショナリズム」と「国体論的ナショナリズム」を区別することによって答えようとしました。わたしが『矢内原忠雄』で提示した解答は、次のようなものです。

矢内原は「キリスト教ナショナリズム(預言者的ナショナリズム)」の立場から「国体論的ナショナリズム」を批判した。

このように考えることによって、矢内原自身の「ナショナリズム思想」とその「ナショナリズム批判」を整合的に理解することができるようになります。

「キリスト教ナショナリズム」は、戦後日本のキリスト教思想におけるひとつの死角であった、ということができるかもしれません。

キリスト教とナショナリズムは、ときに密接に結びついてきたということ。――その事実をはっきりと見据えたときに、矢内原忠雄の新たな相貌が見えてくるのであり、同時に、わたしたちが明確には考えてこなかった問題が見えてくるのではないでしょうか。

赤江達也

赤江達也(あかえ・たつや)

1973年、岡山県生まれ。台湾国立高雄第一科技大学助理教授。博士(社会学)。筑波大学第一学群人文学類卒業。筑波大学大学院博士課程社会科学研究科修了。日本学術振興会特別研究員(慶應義塾大学)を経て、2008年より現職。著書に『矢内原忠雄―戦争と知識人の使命』(岩波新書、17年)、『「紙上の教会」と日本近代―無教会キリスト教の歴史社会学』(同、13年)。
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