分断化する米国 ナッシュビルで聞いた南部人の生の声 青木保憲

2017年9月9日08時02分 コラムニスト : 青木保憲 印刷
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南部では、米国の国旗ではなく南部連合の旗をモチーフとしたお土産がたくさん販売されている。
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8月24日から9月1日まで、毎年恒例のナッシュビルツアーに行ってきた。これを企画してはや7回目。ここ6年間で11回のナッシュビルである。人は私を「Crazy Deep South Lover(ヤバいくらいの南部大好き人間)」と呼ぶ。

その名の通り、バイブルベルトと呼ばれる地域の牧師、教会らと交流があり、その中でいろいろな「生の声」を聞くことができる。もちろん、新聞や各雑誌からの翻訳も、出来事の大筋をつかむにはいいだろう。しかし、それよりも精度が上がるのは、やはり現地の声を真摯(しんし)に伺うことだと思う。

私は今回、WASP(White Anglo-Saxon Protestant)のトランプ支持者とも会えたし、逆にアフリカ系米国人でトランプを支持している方と話をすることもできた。一方で、WASPに属するがヒラリー支持であったブルーカラー層、福音系教会指導者にも会うことができた。

本レポートは、米国の市井の声をできるだけレアなままお届けすることを主眼としている。もちろん、学術的なフィールドワークをしたわけではないので、統計的にどうかとか、これがそのまま南部人全体の指標となり得るかについては、大いに疑問がある。しかし、少なくとも彼らの背景になっている「南部気質」と米国福音派の文化体系について、その一端をうかがい知ることは可能であろう。そのような観点から以下のレポートをお読みいただけると幸いである。

ツアーはいつもテネシー州ナッシュビルを拠点として動いている。今回もそうだった。前回はメンフィスへ向かい、公民権運動やブルース音楽のルーツをたどった。しかし、今年はあえて逆に向かった。ケンタッキー州にあるアーミッシュ村を訪れたのである。

アーミッシュとは、ドイツの敬虔な信仰共同体を今なお保持し続けるマイノリティー集団のことである。新移民として18世紀半ばに米国に入ってきて以来、彼らは電気もガスも使わず、すべて手製の器具で生活している。

そんな彼らと巡り合い、また話す機会が与えられた。まず聞きたかったことは、彼らは国家政治に関与しているかどうか、である。彼らは外界との接触を極端に嫌い、写真を撮られることはかたくなに拒否している。当然、政治に関しても無関心だと思っていた。しかし、そうではなかった。

もちろん、「どちらの党を応援しますか」などというぶしつけな質問はできなかった。しかし、「大統領選挙に関心はありますか?」という質問に対し、「当然です」と即答されたことから、政治的な関与を決して忌避しているわけではないことが分かる。

だが、政治集会や特定の候補者を応援することはしないし、考えたこともないという。「投票は?」と聞くと、ある者はしたし、ある者はしていない、という答え。やはり多少の多様性はあるようだ。

次いで出会ったのが、生粋の南部人でニューヨークタイムズのベストセラー作家に名を連ねている男性。彼はバージニア州での白人至上主義者たちの騒動について、心を痛めながらこう語った。

「彼ら(白人至上主義者たち)は問題をはき違えている。今どき人種差別なんて論外だ。でも、リー将軍の銅像を撤去するという行為もまた愚行だ。どうしてそこまでする必要がある? まだ戦時(南北戦争)のつもりか? あれには南部人の誇りが詰まっているんだ。それまでも奪うというのなら、私は許せない」

確かに多くの南部人の家(テネシー州、ミシシッピー州など)には、このような絵が飾られている。これらの絵の中心にはいつもリー将軍がいる。女性や子どもたちに優しく話し掛ける姿、軍隊を指揮し、人々を鼓舞する姿など、確かに南部人の精神的屋台骨を担っていることが分かる。

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女性、子どもに手を差し伸べているのが南部連合の将、リー将軍

しかも、私が今回撮影させてもらった家は、アフリカ系米国人の家庭であった。南北戦争の主要因(奴隷制度の是非)からするなら、彼らの家にこのような絵画が飾られているはずがない。南部人にとって、リー将軍は単に「奴隷制度推進の象徴」ではないのであった。

一方、同じく南部に住み、WASPでありながらもこのリー将軍の銅像に対して真っ向から否定的な意見をぶつける者もいた。彼もまた生粋の南部人であるが、はっきりと「私たち一家はヒラリーに投票した」と公言してはばからない。彼はこの銅像に関してこう語る。

「リー将軍といえば、南軍の将。いくら南部人が彼を偉人としてあがめるといっても、銅像があちこちに乱立している状況は絶対によくない。あれは奴隷制度を肯定した南部の恥部なんだ。少しでも目に留まらないところに置くほうがいい」

ちなみに、彼はまだ30代前半で、若い世代に属している。

このように米国の多様性を目の当たりにした私は、あらためて事態の複雑さを痛感した。順不同になるが、現在の米国が抱えている本質的な問題点を2点挙げておきたい。

① 南北戦争を「奴隷制」の是非を問うた戦争として捉えることはいいが、それを現在の人種排他的雰囲気と安易に連結してしまう在り方は、大いに危険である。

②「リー将軍像」という実在の銅像に対する根源的な解釈の違いが存在する。これは安易に埋めることができない解釈のずれである。しかし、すり合わせを始めないと、第2、第3の「リー将軍像」が生み出されてくる可能性はある。真摯な歴史研究者があらためて求められているように思われる。

米国が1日も早く建国の理念(共通の未来のために生きる神の民)において一致できることを心から願う。

青木保憲

青木保憲(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院を卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科卒(修士)、同志社大学大学院神学研究科卒(神学博士、2011年)、現在は大阪城東福音教会(ペンテコステ派)牧師。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(2012年、明石書店)。

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