人口の半数が家を失ったシリア 戦後70年に紛争続くシリアと世界の平和を考える

2015年8月11日20時10分 記者 : 内田周作 印刷
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サダーカ代表の田村雅文さん=9日、明治学院大学白金校舎(東京都港区)で
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日本では戦後70年を迎える今年、中東シリアでは2011年3月に始まった紛争が深刻化し、「戦争」が現在も進行中だ。シリア現地の状況を知ってもらい、シリアと世界の平和を考えようと、シリア支援団体「サダーカ」と明治学院大学国際平和研究所が9日、同大白金校舎(東京都港区)でシンポジウムを開催した。シリアともネット中継でつなぎ、平和のために何ができるか、約200人の参加者が共に考えた。

人口の半数1100万人が家を失ったシリア

シリアでは現在、人口2200万人のうち、400万人が難民となり、国内でも700万人が国内避難民という状況で、人口の半数が家を失った状態にある。紛争による死者は今月、24万人を超えた。国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員として、シリアに2年間滞在していたサダーカ代表の田村雅文さんはこの日、穏やかな人々がのどかに暮らしていた紛争前のシリアを紹介する一方、紛争が4年にわたって続くシリアの状況を伝えた。

400万人の難民のうち、隣国ヨルダンには60万人が避難している。ヨルダン最大のザータリ難民キャンプには、現在8万人の難民がおり、残る52万人は主に首都アンマンの都市部で生活している。都市部に住む難民にとって最大の問題は家賃の確保だという。家賃のために毎日走り回る生活。小さな子どもたちも、街で食べ残したパンを拾い、家畜の飼料として売って、少しでも家賃の足しにしようと働いている。家族を支えようと自発的に働く子どもたちの姿に、「力強さを感じるとともに、つらく感じる」と田村さんは話す。

田村さんは現在、ヨルダンに家族と共に住み、シリア難民の家庭を一つ一つ訪問して支援活動を行っている。そうした中で共通して聞こえてくるのが、「国に帰りたい」という声だ。「難民支援だけを続けていても限界がある」。難民問題の解決は、難民が安全に帰還することであり、そのためには戦争を止めなければならない。田村さんは、「シリアの人たちの願いや思いを届けることしかできないが、届けることで皆さんのアクションにつなげることができれば」と語る。

「21世紀最悪の人道危機」はなぜ起こり、悪化したのか?

人口の半数が家を失ったシリア 戦後70年に、紛争続くシリアと世界の平和を考える
シリア情勢について解説する東京外国語大学の青山弘之教授

この日は、シリア政治の専門家である青山弘之・東京外国語大学教授が、「21世紀最悪の人道危機」といわれるシリア紛争がなぜ起こり、悪化したのかを解説した。中東諸国で「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が起こった2011年、シリアでも3月から散発的なデモが拡大した。これに対し、シリア政府が過剰な弾圧を加えたのが始まりだと青山教授は言う。

しかし、現在は「独裁」対「民主化」という単純な構図からは離れ、さまざまな要因が絡まる複雑な状況にあるという。青山教授は、1)混乱に適切に対応できなかったシリアの政治家(シリア政府・反体制派)、2)反体制派を支援するために外国人戦闘員をシリアに投入するトルコ、サウジアラビア、カタール、3)外国人戦闘員の投入を黙認し、「民主化」が行われていると伝えることで間接的にテロを支援する欧米諸国、4)ヌスラ戦線などのアルカイダ系組織や「イスラム国」(IS)といったイスラム過激派の4つが、民主化運動として始まった混乱を「ハイジャック」している状況だと説明した。

また、米国が対IS戦略として、軍事訓練をしているシリア国内の「穏健な反体制派」が、より強力なアルカイダ系組織に従属、あるいは吸収され、事実上アルカイダ系組織と同義となり、悪循環に拍車を掛けているとも指摘した。もはや「シリア人の手では終わらせられない」状態にあるという。その上で青山教授は、一時より大幅に減っているシリアに関する情報に継続的に触れ、「独裁」対「民主化」というステレオタイプの見方にとらわれず、情報に潜む政治的思惑を考慮しながら、シリア情勢を見ていく必要があると語った。

人口の半数が家を失ったシリア 戦後70年に、紛争続くシリアと世界の平和を考える
シンポジウムの中で行われたパネルトーク「シリアの人々と考える世界の平和」で話す4人のパネリスト。左から、田村雅文さん、日本在住のシリア人ファディ・フェルハトさん、青山弘之教授、この日上映された映画『目を閉じれば、いつもそこに〜故郷・私が愛したシリア〜』の映像監督である藤井沙織さん。

失って初めて気付いた平和

この日はまた、国外に逃れているシリア人のインタビューをまとめた映画も上映された。「シリアは平和だったけど、平和を失うまで、それが平和だったと気付かなかった」。そう話すのは、日本人女性と結婚し現在は日本に住むラドワンさん(25)。「平和が必要なんだ。銃なんていらない」と故郷を思う。1カ月以上かけて徒歩でヨルダンまで逃れてきたイナス(10)さんは、「思い出すだけですごく怖い」と言い、今はシリアへは戻りたくないと話す。

人口の半数が家を失ったシリア 戦後70年に、紛争続くシリアと世界の平和を考える
シンポジウムは2部構成で行われ、第2部ではシリア支援のために活動している5つの団体がプレゼンテーションを行った。写真は、今月から公開されている映画『それでも僕は帰る~シリア若者たちが求め続けたふるさと~』を紹介するユナイテッドピープルのアーヤ藍さん

この日、スカイプを使ってゲスト登場したシリアの首都ダマスカス在住のマナールさんは、「最初は何も分からなかった。この戦争が終わると思っていました。でもやっぱり分からなくなりました。分かったのは、もう普通の生活は無くなったということ」と語った。それでも「まだ生きています。まだ平和を望んでいます。もちろん希望があります」と言うマナールは、日本への留学経験もあり、「憲法9条を大学で勉強したときは、とても素晴らしいと思いました。日本の平和と世界の平和のために、この約束を作ったことはとても素晴らしいと思います。これを守ってください」と伝えた。

アラブ語で「友情」を意味するサダーカは、シリアで紛争が始まってから1年後の2012年3月に田村さんらが設立した。シリアの人々の声を伝え、ヨルダンで暮らすシリア難民の支援などを行っている。シリアの紛争を止めるための署名活動も行っており、終戦記念日の8月15日には、マナールさんからのコメントも入れた平和を訴えるメッセージ映像を公開するという。

シリア支援団体「サダーカ」公式サイト

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